当院に来院した 骨折と超音波画像
おかもと接骨院
柔道整復師 岡 本 透
当院 に来院 した 骨折と超音波画像
はじめに
接骨院 では、 骨折、脱臼、打撲、捻挫、挫傷を取り扱い、時としてそれ以外または重症例 など を病院、医院へ適切に転医、紹介する医療類似機関である が、 骨折や脱臼をRiskとし、一切の 「 施術をせずに転医させる 」 と 言う 手段をとる 柔道整復師も多く存在する 。これは決して 誤った判断 ではないが 、そういった柔道整復師が多くなれば 社会全体 が「 接骨院は骨折 を 診れない 所」 として認識され 、 来院 する 骨折患者の絶対量が少なくなってゆけば当然、我々の資質低下も見られるようになり診断出来ていたはずの骨折を見逃してしまう等、患者に対し不利益をもたらす事も懸念される のである 。
そこで、ここ数年前より超音波観察装置 に よる骨、軟組織の観察が我々柔道整復師の中に浸透し、骨折や軟部組織損傷の診断などの手助けと成るツールである事は明白となって 来ましたので 今回その有用性また 、 危険性等を踏まえ 、 当院に お ける平成6年12月から平成22年5月までの16年4ヶ月間に経験した全骨折 70 例の一部 を 紹介し、超音波画像の読み取り方法と若干の考察を加え 報告 するものである。
当院における骨折の来院状況 でございます。上の表は 超音波観察装置導入前の骨折 57例と、下の表が導入後、約4年間の13例で、ございます。 過去16年間に合計 70 症例の骨折が来院 しております。
超音波画像観察装置導入前の骨折
【 症例1 】 72歳女性 左足関節 4果部骨折
自転車 の 前輪が滑 り 左足で地面を 強くつき、転倒受傷する。後、 自転車 に再 乗車、当院まで来院、本人捻挫したと 訴える 。
初検 時、 徒手検査にて 脛骨及び腓骨に骨折を認め牽引整復を行う。
某 内科医 院 に レントゲン を依頼し4果部骨折を認め再整復する 。
家庭の事情により通院及び往療は困難と判断し 入院を勧め同意 を 頂 く。
某整形外科へ転医するも 、整復位が良好であった為、 再整復もなく 固定 し入院。
2ヵ月後に退院、当院へ後療通院する運びとなる。
□写真説明
そのときの1回目整復後のレントゲン写真で、ございます。脛骨内果、腓骨下端、脛骨下端前縁、後縁の4果部の骨折になります。
◇ 解 説
この症例の様な重症例であっても患者本人は骨折したとは思っていない例が非常に多く、当院においては約94.4%におよぶ(70人中67人)。よって診断には細心の注意を払わなければならない。また、レントゲン画像を見るまで整復後の骨折部の確認などは不可能となるため、整復行為もまた、注意が必要である。しかし、レントゲンの必要性はあるものの本時点において超音波観察(以下エコー観察)装置の必要性は感じていなかった。
超音波画像観察装置導入後の骨折 及び外傷
(平成 18年6月導入)
【 症例 2 】 46歳男性 左第 8肋骨骨折
運動会のテント張りをしていて鉄の棒に 左 側胸部を強打し受傷。
初検 時、疼痛、圧痛、運動痛、胸郭双手圧痛、深呼吸時痛有り。肋骨骨折を疑う。
エコー観察にて際立った骨折 によるアーチファクト(ノイズ)は確認できなかったが、 深呼吸をさせた 時、 骨折 によるアーチファクト が 大きく 観られ た 。
某 内科へレントゲンを依頼、骨折線を確認する。
□写真説明
このようにエコー画像を見比べて頂けると解ると、思いますが深呼吸時に音が隙間に入り込むアーチファクトが見て取れます。しかし、レントゲン像では骨折線をなんとか確認できるくらいで非常に確認しづらいものでありました。
◇ 解 説
本症例のようにレントゲン上でも確認しにくい症例であったとしてもエコー観察による動的観察や転位を増強させる事で骨折を確認する事が出来る場合がある。
【 症例 3 】 29歳女性 左膝蓋骨骨折
バレーボールをしていて回転レシーブをした時に膝を強打。 2日目、 某 総合病院 にて打撲と診断。4日後に当院来院。
初検 時、腫脹はある が 皮下出血は 認めず 。しかし、骨折の主症状は 存在し特に介達痛が著明である。更に 膝蓋骨の下部に陥凹を触知し膝蓋骨骨折を疑 う。
エコー 観察 にて膝蓋骨骨折 と思われる陥 凹 を確認。しかし、一度、 某 病院で検査しているはずなので二分膝蓋骨 の可能性を伝え、 某整形外科を紹介、 レントゲン検査にて 膝蓋骨骨折と診断、3日後に 手術 と なる 。
□写真説明 そのときのエコー画像でございます。
丁度、この部分で骨折しているのが見て取れると思います。レントゲン画像ではこれになります。正面におきましては殆ど見えません。エコーとレントゲンを重ねますと細分なくそのものを映し出しているのがわかると思います。
◇ 解 説
本症例ではレントゲン側面像にて明瞭な骨折と診断する事が出来るが、正面像では大腿骨と重なり確認が困難である。受傷直後、転位が殆ど無かったと仮定すると、膝蓋骨骨折は側面像でも確認出来ない場合がある。よって骨表面の状態を観察し易いエコー画像による確認も一方法論であると言える。
【 症例 4 】 14歳男性 左二分膝蓋骨
2週間前バスケットボール試合中に膝を 打撲し 激痛があったと言う 。 2〜3日で 疼痛は減少したが、 プレイ中、膝がちぎれそうになると言う 表現をする 。
初検 時、骨折の主症状は ないが、軽い 叩打痛 を認め 、膝蓋骨上外側 部 に は 陥凹を 触知。二 分膝蓋骨を疑う。
エコー 観察 にて二分 膝蓋骨 像と思われる陥凹 を確認するが、画像上において二分膝蓋骨と骨折との鑑別ができず混乱する 。
某整形外科を紹介し二分膝蓋骨と診断される。
□写真説明 そのときのエコーでございます。私のように経験の少ないものが初めてこの異常なアーチファクトを見た時に骨折と二分膝蓋骨を診断するに至りませんでした。
レントゲン画像およびMRIにおいて骨の不明瞭部分などから二分膝蓋骨である事が伺えます。
◇ 解 説
本症例においては徒手検査により膝蓋骨骨折より二分膝蓋骨を疑うが、エコー観察によりむしろ二分膝蓋骨である事を疑い始め混乱する。その為、レントゲン検査及びMRI検査にて二分膝蓋骨と確定診断をした。
◇ 症例3と症例4の比較検討
□写真説明 症例3と症例4においてエコー画像の注視する部分の辺縁の鋭利さ丸さが膝蓋骨骨折と二分膝蓋骨の鑑別に重要視される事が見て取れる。
考 察
骨折と思われる患者に対して、骨折の疑いを得る迄の殆どの場合において超音波観察装置は必要としないが、超音波観察装置により疑いから確信へ導く検査機器である事も確かであり、 4年前の 導入により、利点、及び欠点の存在が経験的に見出されたので、若干の考察を加える。
1、 超音波観察装置 の利点
* 骨折を見逃すことが少なくなる。
* 軟部組織の損傷状態の把握が出来る。
* 動的観察が出来る
* レントゲンで確認の難しい症例でも骨折が確認できる場合がある
* 骨の表面が如実に観察できる。
* 骨折整復術後状態の確認ができる。
* etc
2、 超音波観察装置 の欠点
* 骨折を見逃す。 (画像に頼りすぎてしまう)
* 骨折の全体像がつかみ にく い。 (プローブが小さく一部しか見えない)
* 超音波検査機器が高価で勉強しようにも買わないと勉強しきれない。 (自信をつけるには導入するしかないのでは)
* 画像そのものが粗く鮮明ではない。(エコー画像は640×480ピクセル、約30万画素であり、最近のデジタルレントゲン画像は 4024 × 2680 ピクセル 、約 1078万画素 も有る。映像として比較すればその差は歴然としている)
* フェイク(偽)画像が多くそれを認識するのに熟練が必要となる。 (超音波の特性を知らなければならない)
* e tc.
3、利点と欠点のまとめ
骨折の診断に於いて症例 1 の様に著明な骨折を徒手的に骨折として捕らえる事は決して難しい事ではなく、診断にエコー観察の必要性は感じられないが、 不全骨折や微小な骨折の場合、超音波観察装置の画像により骨折部の確認が出来る場合がある。逆に確認が難しくなれば術者の混乱を招く危険性がある。また、画像そのものは粗く不鮮明であり、エコー画像で骨折ではないものを骨折であると判断してしまう危険性もある。不完全な映像を不完全と捉える目を養わないと混乱するだけの検査機器となってしまう可能性がある。
結 語 レントゲン検査においても画像ありきの診断では骨折を見逃してしまう可能性は大いに有ると聞く。よって、柔道整復師は超音波観察装置を使用する場合、細心の注意と元来行ってきた徒手検査による診断を最大限に生かす事で混乱を防ぎ、徒手的に判断できる骨折や軟部組織の損傷の程度を映像として観察、骨折の整復後の転位の状況確認をする時に使用するが妥当ではないかと考える。
参考文献
1、 三木堯明 ; 整形外科Reference 骨折と外傷 第1版 発行所: 金芳堂 1992年
2、柳田雅彦 ; 「若木骨折における超音波観察の注意点」日本超音波骨軟組織学術研究 第3巻第1号 41p〜42p 2003年
3、竹市 勝 ; 「超音波観察入門」改訂版、日本超音波骨軟組織学術研究 第4巻 第2号(1p〜59p)2005年
4、奥村卓巳 ; 「競技者が有する分裂膝蓋骨のリスク管理における超音波観察の有用性」日本超音波骨軟組織学術研究 第7巻 第1号(35p〜39p)2007年
平成22年10月に北信越柔整専門学校学術研修会にて発表しております。
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